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« 長らくお待たせしております | 活動報告でもお礼を申し上げたのですが »

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リハビリ

文章を書くことを思い出すため、リハビリです。
金の時代です。まだ旅に出るまえの、大神官と勇者二人組みの話です。お茶濁し程度に。
(4/30改稿しました)




「この私にたてつこうとした無謀さ、思い知るがいい!」

 見事な金色の髪が、陽光に輝いた。彼女は高笑いをしながら、男達を尖った靴のかかとで踏みつける。鈍い音が路地裏に響き渡り、踏みつけられた男は哀れな声を上げながら悶絶した。男は痛みのあまり暴れまわっている。しかし、踏みつけた足は微動だにしない。ほっそりとした足の癖に、恐ろしい力を秘めているのだ。
 踏んでいる彼女は実に楽しそうである。なんともはつらつとした爽やかな笑顔で立っている。元気さがあふれているほどだ。足で踏んでいるのが男でなければ、普通の街角の光景かもしれない。

 青年はその様子を軒下の樽の上から眺めていた。彼はケンカが始まってすぐにここに退避し、ずっと状況を観察している。黒髪の冴えない青年だ。陰鬱そうな表情を浮かべ、高笑いをする彼女を眺めていた。
 踏まれる男を見た青年は、顔をしかめ自分の脇の辺りをそっと抑える。アレは痛い。自分の身をもって知っている。何度か同じように踏みつけられたことがあるのだ。事故もあり、故意もあった。どちらにせよ、かなり痛い。
 だが、制止の言葉は掛けなかった。止めたところで火の粉が飛んでくるだけである。どうせとばっちりをうけるなら、少しでも少ない方がいい。自分のささやかな努力で被害を減らせるものならば、他人の不幸などいくらでも目をつぶる。青年とて自分が可愛かった。
 青年はこの後の騒動を考えげんなりとした。考えるだけでゆううつになる。膝を抱え込み、その上に顎を乗せた。上背があるため、よけいに貧相なイメージが強くなる。あまりのゆうつさに、背筋を伸ばす気力もそがれたのだった。そして、周囲を改めて見回した。

 うらぶれた路地に転がる気絶した男達。手入れの行き届いていない剣もそこらじゅうに転がっている。明らかにゴロツキです、裏稼業ですといった服装だ。そんな彼らがごろごろと無軌道に倒れ伏しているさまは、まさに死屍累々である。十人以上はいるだろうか。一応、彼女は手加減が出来るため、殺してはいない。ただ、再起不能になっているだけ……だと思いたい。
 これらは青年の連れに絡んできた男達の末路であった。道を塞ぎ、女性に乱暴をしようとした相手のほうが、確かに悪い。何人に聞いても、相手が悪い一択の答えしか返らないだろう。
 しかし、それにしても過剰防衛気味である。ここまでやる必要があったのか。正直、後日の報復も恐ろしい。
 青年はうつろな目のまま空を仰ぐ。
「まあいつものことか」
 おでかけをするときはいつものことだ。望むにしろ、望まずにしろ、騒動が起こるのはいつものこと。
 青年は静穏を愛している。それが高じて星職に進んだ。そのはずなのに、なんでこうなった。それもいつも繰り返す言葉であり、胸中に広がるのは諦念である。

 路地の建物の隙間から見える空は青く、のどかな雲が浮かんでいた。背景におっさん達のうめき声がなければ、素晴らしい昼下がりだといえるだろう。
 それでもそろそろ現実のことを考える時間である。青年は胸の底から呼気を搾り出すような溜息を零しながら、自分の髪をかき回した。もともとおさまりの悪い髪がさらに跳ね上がる。
 さすがに止めないと危険だった。相手の男達がではなく、自分達が、である。
 懐から星術時計を取り出し、騒ぎが起こってからの時間経過を考える。先程騒ぎに気付いた街の女性が走っていったときから考えると、まもなく自警団が到着する頃合だ。未だにぐりぐりと男を踏みつけている連れに声を掛ける。ついでに懐から取り出したものを握りこむ。
「おーい、お楽しみはそれぐらいにして、帰るぞ」
「なっ」
 驚きのあまり、力加減を間違えたらしい。ぐえ、と声を漏らしてとうとう踏まれていた男が気絶した。連れはそれを一顧だにせず、青年の前につかつかと歩み寄った。
「なんだと、まだ私は遊び足らない!」
 おかんむりのご様子である。正面からこちらを見据える目は、怒りのためか紫水晶のように輝いている。流れる金の頭髪は無造作に束ねていても美しく、顔の造作も整っている。何よりも彼女を魅力的に見せているのはその生き生きとした表情だろう。今は、多少目が釣りあがっているが。まだ少女という域を脱し切れていない容貌である。
 だが、青年も引くことは出来ない。早くこの場を離れてさっさと帰りたかった。子守は自分の仕事ではないはずだ。
「じゃああれか? また自警団にとっつかまってひと暴れした挙句、近衛騎士団に迎えに来てもらって自警団が気絶して、王子が心労で寝込む場面が見たいと?」
実際にあったことをすらすら並べ立てれば、まろやかな頬がぷくりと膨れた。ああ、まだむくれる程度のお怒りか。青年は冷静に分析する。頭が血が上りやすい彼女と付き合うには、適度な距離が必要である。つまり、怒りを覚えられても本当の意味で激昂させない程度に抑えなければならない。
「ほら、帰るぞ」
「でも、」
開けられた口に、先程時計と一緒に取り出したものをねじりこむ。
「むが!」
容赦なくねじりこまれたものに、一瞬彼女は怒りかけたが、次第に不思議そうな顔になり、最期は微妙な表情になった。
「なんだこれ?」
「微妙な味のアメ。面白いだろう? そのうち苦くなったり甘くなったりするらしい」
「ふーん……」
アメに気を取られたのか、彼女は大人しくなった。アメやったこともばれなきゃいいが、と過保護な騎士団長を思い出し青年は胃をそっと押さえた。仮にも王族に毒見をしていないものを! と前回焼き鳥を与えたときにくどくど言われたものだ。
「帰ったらもっとやる」
「なら、今日のところは帰るか」
この王女様は現金なもので、珍しいものを与えると大人しく帰ることに同意してくれるのだ。
 アメ一つに嬉しそうな王女様を見ながら、自分の人生のどこで誤算が生じたか、青年はうなだれたのだった。

 

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