ツイッターで「町民が恥ずかしがる話を書く」と宣言したので書きました。
が。
前回3つと比較しまして、いろいろと、駄目な方向に進化しました。
甘酸っぱい……のか? これが、甘酸っぱいというやつなのかッ!!!!!
恋愛風味が苦手だという方も、夫婦ネタがだめだという方も、避けていただいた方がよろしいかと存じます。
それでも良いという方は、右下の「つづきはこちら」からどうぞ。
※朝の話の続きです。
今日のお宿は朝食付き!
朝から簡単に身づくろいをして、食堂の隅っこの二人席で一緒に座っています。
ピークからややずれた時間帯なせいか、人影はまばらで、のんびりした雰囲気が漂っていました。
楽しいはずの朝食の時間ですが、私はぼんやりと考え事をしていました。
前々から疑問に思っていたことで頭の中がいっぱいですよ。
朝、目が覚めると、大体、旦那様が近くにいないことについて、です。
夜に寝るときは一緒なんですよね。初めは緊張しましたが、大分慣れました! 頑張った! もともとどこでも寝れるこの便利体質が役に立っていますよ。
そもそも二部屋取るより、一緒の部屋のほうが値段安いしねっ。そのお得感を主張すれば、なぜか遠い目をされましたが。
本当になんでいつもいなくなるんだろう?
寝顔を見たことがほとんどないのも関係しているのかもしれません。
ずっと聞こうかな、どうしようかな、と思いつづけていましたが、この際聞いたほうがいいのかな。
じっと目の前の人を眺めます。いつも朝食だけは一緒に摂っているので、前の席に座っているのです。
「どうした」
「んぐ」
ちょっと待ってくださいね! 今、卵焼き食べたとこなのでっ。
目で訴えたのを理解してくれたのか、それ以上の問いはありませんでした。
口の中にある卵をとりあえず飲み込んで、ちょっと悩みます。
「前から、気になっていたんだけれど……」
口に出してしまってから、少し後悔します。なんか私にいいにくいことが原因だったらどうしよう! 私の寝相が悪すぎるとか、世にも恐ろしい歯ぎしりやいびきだったとか、寝言がすさまじいとか! 言い出せない分、そっと横から退避してくれてたんだったらどうしよう! その場合、無言の親切を無駄にしていませんかっ。しかも、真実だった場合はさらに困ったことにっ。
一通り頭の中で想像が駆け巡りました! この人は嫌なことがあっても我慢するタイプだあああ!
「つまり私は寝相が悪いっ!?」
涙目で聞いた質問に、返されたのはものすごく呆れたまなざしでした。
表情はおおよそ読み取れるようになりましたが、これは一番心に突き刺さるっ! や、変に取り繕われるよりいいんですが。
「食事」
「あ、はい」
ご飯の途中だということを指摘されて、はっと思い出します。早く食べないとせっかく蕩けたチーズが固まるよね。もったいないです!
チーズを口に含むと、クリーミーな食感がふわりと広がります。美味しい! ここはチーズが有名な街だから、どのチーズを食べてもおいしいので、顔が蕩けていきますよ。
「寝相は、普通だ」
おおっと、話の途中でしたっ。そうですか、寝相は普通ですかっ。チーズから意識を引き戻します。
「なぜ急に?」
そうですね、疑問、ごもっともです! 私は迷った末に、ちゃんと聞くことにしました。
「朝、……起きたら、いないでしょう? 何でかなーって……」
言っているそばから、微妙な雰囲気になってきました。
旦那様は何も言いません。が。しばらく何かを考えている様子。
雰囲気が、微妙な空気に傾いていきます。聞いちゃいけないことだったのかな。ごまかすように口にしたチーズは、さっきのよりも少しだけ冷えて、硬くなっていました。
「『どんな顔をしたらいいか分からない』」
へ?
うつむきがちになっていた視線を上げると、しっかりと目線を合わせて、
「お前が言ったのを、覚えていないのか?」
そのセリフは、いつの私のセリフですかっ。でも、記憶力のなさに定評がある私、覚えがなくとも言ったんでしょうね! 旦那様がおっしゃるならその通りでございます!
でも私が言ったのなら、ちゃんと思い出すべき! 一生懸命考えながら、ヒントを探っていきます。
「い、いつですか」
「結婚した次の日」
次の日っ! 何があった私っ。いや、なんでそんなことをいう状況になったんでしょうかっ。
多分、私の顔が疑問でいっぱいになっていたんだと思います。珍しく、長文での補足がありました。
「目が合うたびに赤くなり、緊張でまともに話せない。そんな状況が一週間続いた。ひとまず、起床時に冷却期間を置くとマシだった」
そして、そのときの習慣が今に続く……ということですね! わかりました! 了解しました! そして身に覚えがあります!
頭をテーブルに打ち付けたい!
朝一番に顔を見たら、その前の晩にあったあれやこれを思い出してしまって、冷静になれないまま一日を過ごしていた覚えがありますよっ。しかも、旦那様が妙にやさしいので、それが余計に恥ずかしさを加速させて顔が見れなくなったんだろうな。思い出してきましたっ。
服を着てから顔を合わせるとましになってたと思うので、多分そのころの話ですよねっ。すっかり忘れてたあああ!
「そ、そ、そ、そうでしたねっ! その節はすみません、本当にごめんなさい……」
思い出したのならそれでよかったのか、そのまま黙々と食事が続いていきました。頬の熱が取れません。
食べる私を、今度は旦那様がじっと見つめます。さっきの仕返しですか。
「今は慣れたか?」
慣れたというか、慣れないというかっ。
ただ、朝起きて隣にいないのが少しさびしいと思うぐらいには、慣れました。
「朝、顔を合わせても大丈夫」
ささいなことを覚えていてくれて、ずっと気を使ってもらっていたんだなと、妙な気恥しさと嬉しさで落ち着きは無くなっているけれど。
「いままで、ありがとう」
じわじわとこみ上げてくる感情は、やっぱりこの人が好きだなあという胸の奥がくすぐったいような、ふわふわする気持ちでした。
「なら、朝は出かけない。それでいいか?」
私は勢い良く頷きました。
何もなくて寝てたらいいけど、何かあった後に起きたら混乱するかもしれないけど、もう大丈夫……だと思うし! 気合を入れて頑張るぞ、とこぶしを握ったところで、
「寝相の話に戻るが」
話題が戻りました。え、普通の寝相じゃないの?
「寝ているときに抱き寄せたら、すり寄ってくるのは可愛いと思う」
う、うわああああああ?!
脳内で絶叫します! 何言ってるんですか、何言いだすんですかあああ!
久しぶりに、恥ずかしいやらいたたまれないやら、朝から食堂で何をっ。いや、そこまでの情報は必要ないし! 言われ慣れていないことを言われたら、硬直しますよ! この人確かにあのお父さんの血筋ですねっ。侮れません!
真っ赤になっているのが自覚できるぐらい、頭に血が上っています。
旦那様が不意に手を伸ばして、私の頬に手のひらを添えました。その手が、すこしひんやりと感じます。どれだけ頬が真っ赤なんでしょうね。
「熱いな」
はい、血が上っていますから! そして今、猛烈にはずかしくて困っているところです!
「……朝、出かけたほうが?」
再度確認する旦那様。私は深呼吸してから、
「善処します……」
と答えるのが精いっぱいでした。
前途多難、なのかもしれませんね……。
これだけは言えます。食堂、空いていてよかったです!
PR